4月3日すいようび
ホウキとチリトリを持ったじいさん。風に流れる桜の花びら追っかけて。ずいぶん遠くへ行ってしまった。もう僕の座っているベンチからは見えないとこまで。ベンチに日ざしはあたたかくて僕は居眠り。じいさんのことはすっかり忘れて。
京王線の列車が風をきるものだから。花びらはほんとうに遠くへ行ってしまった。じいさんは迷子になってしまった。両手にホウキとチリトリを持ったまま。じいさんはもう歩くのがしんどくて。僕はあいかわらずベンチに居眠りをしていて。じいさんは歩くのがしんどいので迷子になりながらもその場をホウキで掃いてみたりして。それぞれの春が。まるで夏のような春が。
神社の端っこで植木が売られていた。一鉢も売れずに。春の花はまんまんと咲いて。じいさんの友だちのばあさんなどがにおいを鼻奥まで吸い込んで。よい香りだねえなんて。じいさんは迷子で道端を掃いているというのに。僕は居眠りしすぎで。
ぱたっと。さっき図書館で借りた本が落ちた音。僕はまだ居眠りをしていて。
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